拙著『封殺された対話』



封殺された対話 ペルー日本大使公邸占拠事件再考 平凡社 2000年

 大道寺将司氏が2000年9月に次のような書評を個人誌に掲載された。

示唆に富む1冊です。本書は、'96年12月17日、在ペルー日本大使公邸をトゥパク・アマル革命運動(MRAT) のゲリラが占拠した闘いを、日本大使館の書記官にして、約四ヶ月間人質になっていた著者が、考察したもので す。そして、著者はMRTAの武装闘争は批判しつつ、彼らの社会正義を求める心情は理解し、また、平和的解 決を口にしながら武力突入を決定したフジモリを非難するという稀有な外交官であり、それ故に本書の内容を信 頼の足るものにしています。
 さて、この闘いは、'97年4月22日、ペルー軍特殊部隊の武力突入でMRTAの14名全員が殺害されて敗北し ます。当時、私は、この敗北をMRTAの戦術的に誤りによるものであり、そしてその誤りは、彼らの思想的な 硬直性によっての招いたのもと考えましたが、本書によってその感をより深くしました。
 戦術的な誤りとは、MRTAは、特殊部隊が地下道を掘削していることを認めながら、武力突入を牽制する形 になっていた一階の人質を二階に移し、自ら武力突入を容易にしてしまったことです。これは、彼らが武力突入 はないという楽観的な判断に固執せざるを得なかった結果です。別言すれば、彼らは、占拠後の“獄中同志の解 放・脱出”のシナリオを粗略にしか描いていなかったが故に、武力突入への備えができなかったということです。
 また、思想的な硬直性とは、MRTAが前衛主義の旧弊に陥っていることです。それは、彼らが四名の指導部 とそれ以外の被指導部=兵士に画然と分けられていたことに明らかです。
 反動的な社会を解体し、真に民主的な社会を創出する闘いにおいて、ゲリラは上意下達の非民主的な階級組織 である軍隊の特性を排除すべきであり、その内部に将来の民主社会の姿を胚胎させるべきでしょう。しかし、M RTAにその意識はなかった。メキシコ・チアパスのサパティスタ民族解放軍がその闘いを民主的に推し進めて いるだけに、MRTAの硬直性は残念です。
 MRTAのゲリラに役割分担の違いがあるだけで階級差がなく、全員が方針決定の討議に参加していたら、あ の敗北を招く判断の誤りを犯したでしょうか。仮に参加者全員の意志があのような事態を招いたのであれば、己 むを得なかったと思うことができるのですが。センチメンタルに過ぎるかもしれませんが、16歳の少女も殺害 ・処刑されただけに、彼らの敗北は無念です。

                                              2000・9・25 大道寺将司